急性期リハビリテーション（OPLL編）

急性期リハビリテーション

　手術が終わって、いよいよリハビリテーション（以下「リハビリ」という。）による身体機能回復が始まる。リハビリには急性期、回復期、維持期（生活期）の三段階（第四段階として「終末期」リハビリもある。）があり、患者の症状に応じて段階ごとに掛ける負荷は変動する。
　私の場合の急性期リハビリは、四肢が全く動かなかったのでベッドの上で行うことになったのだが、病院内での施術なので平日は１コマ（20分）だけで、その日の施術数が少なければ２コマ（40分）の場合もあった。これは急性期病院であれば仕方のないことで、特に冬季は転倒などによる整形外科患者が増えるため、リハビリのニーズがとても多くなることから一患者に掛ける時間が限られてしまうからだ。

　そして、ある程度座位の状態が保てるようになったら、ベッドから足を出して床に着けた半立位状態を保つ訓練。もちろん上半身は支えて貰っているが、出来る限り自分で姿勢を保つようしなければならない。
　慣れてきたら、次は身体を抱えてもらった状態でベッドから離れて立つ訓練なのだが、これが大変。足に全く力が入らないし、足を床につけた途端に脚全体がビリビリと強い痺れを伴うのだ。それはそうだろう、１か月近くずっと寝たままだった私の脚の筋肉は相当瘦せ衰えてしまっていたのだから。それでも、「数秒でも良いので立てる様にしましょう。ベッドから車椅子に移れるかどうかで今後の生活の幅が違ってくるのですよ。」と言われ、合点した私は我武者羅に立とうと頑張った。
　支えて貰って何とか数秒立てる様になったら、次は車椅子への移動だ。この体位転換も全て支えて貰ってのことなのだが、何とか車椅子に座ることができたら洗面台の前に連れてこられ、そこで手を洗う訓練となる。しかし、その時の私は手を差し出す力も無く、これも全て補助が必要なレベル。
　そう、私のリハビリの進捗は「カメの歩み」より遅いと言ってもよいだろう。とても数か月で社会復帰できる状況ではないという事は、素人の私でも理解できた。

　そんな折、主治医から次のステップへの提案があった。内容は、リハビリ専門病院へ転院し、出来るだけ良い状態で社会復帰を果たすように訓練するというもの。ただし、訓練は非常に厳しく、諦めて退院する患者もいるらしい。しかも、私の今の状態から勘案するに、そこでのメニューを熟したとしても車椅子での社会復帰がよいところだろうという事だった。
　しかし、ここまできて進歩を望まないで居られようか。「厳しくてもやります。」と私は転院の手続きをお願いした。

四肢麻痺時での入院生活について

　手術後、身体が落ち着いてきたら食事は経口食となる。しかし四肢が麻痺して動かない私は、食事はもちろん、食後の歯磨きも、着替えも、排泄も、全て看護師等医療スタッフの方の介助がなければ出来ないのだ。健康な人間に、この状態と同じようにやって貰えと言われたら、恥ずかしさと情けなさで大半は拒否するだろう。そんな中で何よりも大変だったのはナースコールだ。
　あたり前だが、四肢が動かない私はナースコールのボタンが押せない。ではどうしたか。病院という処はこんな患者の為に便利な器具がある。声に反応する「センサー型ナースコール」だ。大きめな声でないと反応しないため、呼ぶときはちょっと恥ずかしいが贅沢は言っていられない。
　この器具のおかげで少しは助かったのだが、如何せん看護師等の医療スタッフの数が足りていないため、直ぐには対応して貰えない。今やどこの病院や医療施設でもそうだが、厳しい経営を強いられているため、潤沢にスタッフを抱えることが出来ないのだ。よってスタッフの方々は朝に夕に目が回るほど働いておられる。特に夜勤時は、どこの病院でも病棟スタッフは数少なくなるため、消灯と同時に看護師の方々の運動会が始まる。これは、決して茶化すつもりは無いのだが、それだけ大変だということだ。

　しかし、何故だろう？何故、消灯と同時に彼方此方でナースコールが鳴り響くのだろうか？私の経験した限りだが、どこの病院でも同じ現象がおきていた。消灯時間は分かっている筈なので、何故その前に寝る準備をしておかないのだろうか？
　入院生活とは、他の患者やその家族だけに気を遣うだけでなく、支えてくれている医療スタッフ等の方々にも、僅かでも気を遣うことは大切なのではないだろうか。