2025年11月24日(月)「回復期リハビリテーション-4-(OPLL自力排泄編)」をアップしました。

回復期リハビリテーション -3-(OPLLロボット編)

OPLL-Recovery
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レール走行式免荷リフト

 ここの病院のリハビリテーション室は広い。これまで急性期リハビリでのリハビリテーション室しか見たことがない私にとっては印象深い光景。その小さな体育館ほどの広さがある空間の一角に30mもあるレールが天井に埋め込まれていて、それは何かを吊して動かすためのものだろうと容易に想像できた。
 案の定、レールから伸びた専用の免荷ハーネス[1] に装着されている装具に我が身を委ね、早期歩行を支援する機械なのだそうだ。使用する歩行支援装具は障害の重さによって使い分けられ、勿論掛かる負荷も調整出来る仕組みとなっている。

 最初にこのマシンを装着した感想は「体幹が非常に弱っている患者には向かないな」という事だった。そもそも中枢神経系のダメージにより、足腰ばかりでなく上半身もフラフラしてコントロール出来ていない状態の者が、下半身だけの動きに身体全体がついて行けるはずもなく、呆気なく初日は直ぐにリタイヤした。やはり、自立して歩くという行為は、下半身と上半身が上手くリンクしないとダメらしい、という事を改めて理解した次第。
 だが、やはりここのスタッフは優秀だ。これを見たPT(理学療法士)の方は即座に上席を交えたミーティングを実施し、以降のリハビリ計画の変更を私に申し出てきた。

 「器具に対しては症状などによって相性もありますので、この訓練(レール走行式免荷リフト)は当面見送ります。しかし、歩くという訓練は絶対に必要なメニューですので、代わりに別のマシンを使った訓練を受けていただきたい。それは、ウェルウォーク[2] という機械を使った訓練です。」

 私は、マシンの実物とデモンストレーションを見て、想定される効果などの説明を受けた後、リハビリ計画の変更に快く承諾した。
 なお、誤解していただきたくないのは、このレール走行式免荷リフトを使ったリハビリは、実に多数の患者が利用し成果を上げているし、実際、成果を上げた患者を私自身も入院中多数見てきた。私の場合、単にこのマシンとの相性が良くなかっただけのことなので、これを読んでこのマシンに対して「食わず嫌い」をしないでいただきたい。

ウェルウォーク

 ウェルウォークは、本来脳卒中の後遺症がある患者に使用するマシンだということなのだが、麻痺が残る症状が似ているということで試験的に実施してみることになった。本来は片麻痺での運用が多いということなのだが、私は片麻痺というより左が僅かに動くという全麻痺に近い状態だったので、スタッフからは「OPLL患者に試すのは初めてですので、無理でしたら直ぐに中止します。」とのことだった。
 しかし、私には(これが無理だったら私の社会復帰は確実に遅れてしまう。いや、社会復帰出来ないかもしれない。ここは、多少無理をしてでも歯を食いしばって耐えて頑張るしかない!)という気持ちが沸々とわいていた。

 スタッフから入念にレクチャーを受け、しかも実際に歩いて見せてくれたのでイメージは完璧だ。上から吊るされたハーネスを身に着け、殆ど動かない右脚にロボットを装着する。準備完了だ。

 「それでは始めます。」とスタートボタンが押される。
 ハーネスが巻き上げられ私の姿勢は立位になった。バランスを取るため、両サイドの補助バーに両手を添える。
 そこで前を向くと、正面の大型モニタに私の正面の姿が映し出されていたため、その異様な姿に少しは戸惑った。下半身だけだと、宛ら某アニメーションに出てくるモビルスーツのようだ。

 初めてのことなので、私の前後にはスタッフがいつでも私を受け止められるよう構えてくれている。そして、「始めます。」と言うスタッフの掛け声と共にトレッドミルが動き出す。

© いらすとや

 両腕で出来る限りの体重を支えながら、走行ベルトの速さに沿って先ずは左脚を前に出す。するとどうだろう、特殊スーツを着けた右脚が勝手に膝を曲げると共に後ろに下がり、爪先を立てベルトを蹴って、その脚を前に出しているではないか。
 (右脚が動いている…)慌てたのは左脚だ。両腕である程度の体重を支えていて良かった。もたつきながら右脚に追従するような形で左脚を交互に動作させる。

(あんなに動かなかった右脚が動いている…)

 勿論、機械負荷100%なので私自身の右脚は何の働きもしていない。しかし、これにより暫く沈黙していた右脚の神経系と脳との回路が修復され、運動能力を呼び覚ます感覚が出てきたのだ。ここで漸く気付いて辺りを見渡すと、たくさんのスタッフが周りを囲んでいて、注意深く私の訓練模様を観察していた。
 暫く走行ベルトを歩いた後、スタッフの「停止します。」の掛け声でベルトの動きはどんどん遅くなる。流石に最初は、止まるときの感覚が分からず後ろに倒れこみ、スタッフに身体を支えてもらった。

 感想は「とても良い」だ。私に合っている。歩いている姿が正面のディスプレイに映し出され、それは正面だけでなく側面、上部と様々な角度で映し出されるので、自分の歩行姿勢や脚・膝の角度が視覚的に認識できるため、リアルタイムで良くない部分を補正しやすくなる。私はすぐスタッフに、このリハビリの継続を願い出た。実際、このリハビリは自立歩行が出来るようになるまでの間、続けられることになる。

3次元動作解析装置・床反射計

 3次元動作解析装置とは、身体の複数箇所(各関節点[3] )に反射マーカーを付け、8台のカメラによって追跡・撮影を行い、歩行などの動作を詳細に3次元解析する装置である。イメージとしては、野球のバッティングや投球フォームなどの様々な運動姿勢・動作を3次元線形で映し出している映像をよく見ると思う。

 マーカーを付けた被測定者は、免振床[4] の上を歩いている姿をカメラで測定・撮影され、コンピュータで3次元解析が行われる。その結果を見れば、被測定者は自分の身体のどこが傾いて、どう捻じれて、どう軸がブレているのか、そしてどのタイミングで無駄な力が加わっているのか等が一目瞭然で確認できる。
 私の場合、右半身の回復が遅れていたため、解析された線形画像や数値(踏込量、角度、向き、速度等)を見て、歩く時の注意点(どのタイミングで何処に、どの様に、どの方向に力を入れるか等)を念頭にリハビリに励むことができたため、最終的には身体の傾きや癖などが相当改善されたと思っている。

 私が入院していた病院では、この器械を活用して患者のリハビリをサポートしており、歩行やバランスの改善、効果的な治療法の設定など、客観的な評価と治療効果の検証に役立てていた。

 参考文献等(外部リンク):「ウェルウォークWW-2000」 https://welwalk.jp/robotics/welwalk/

  1. 免荷ハーネス:身体の損傷部分に負荷・荷重を掛けないようにするため、損傷している身体の一部又は全体に装着する装具。 ↩︎
  2. ウェルウォーク(Welwalk):トヨタ自動車と藤田医科大学が共同開発した歩行訓練ロボット。下肢に装着するロボットの働きを利用して、トレッドミル(走行ベルト)上を歩行するが、歩行中は安全ベルトの装着により転倒の危険がなく、安心して訓練を行える機械となっている。また、患者の障害度などに応じて0-100%と細かく負荷を調節できるので、重度から軽度まで幅広く適用できる。筆者が経験したウェルウォークはWW-1000型で、今はWW-2000型が最新型となっている。 ↩︎
  3. 各関節点:肩峰(けんぽう、上腕と肩の付根にある骨の出張り部)、肘、手首、上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく、腰骨外側の前部分にある骨の出張り部)、大転子(腿の外側上部の付根にある骨の出張り部)、膝関節点(大腿骨と脛骨などの接続部位/膝)、足関節点(脛骨、腓骨、距骨を繋ぐ関節部位/足首)、中足骨(足根骨と(足の)指骨の間にある細長い骨/足の甲)、その他測定部位によって変動する。 ↩︎
  4. 免振床:建物構造部に取り付けられたローラーやダンパー等で構成される免振装置上部に取り付けられた床。「浮き床」とも言われ、三次元(水平・鉛直方向)の揺れの減衰に対応できる。実効性のある詳細なリハビリ・メニューは、精密な測定によって得られた精緻な解析(エビデンス)が不可欠であり、様々な医療器械やロボットはその一翼を担うが、その機器等は外乱が生じにくいベースに設置されて初めて効果を発揮する。このため、医療器械等にとってフラットな環境を付与できる構造物の一つとして免振床がある。 ↩︎