障害を抱えた後の「働く」という不安
回復期病院に入院中、私は様々な病歴や職業の方と出会いました。私のようなOPLL(後縦靭帯骨化症)患者は少数でしたが、脳卒中などにより身体に障害を持つ身として、退院後の「仕事への不安」は皆同じでした。
※脳卒中:ここでは、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳血管障害病気の総称をいいます。
身体に障害が残るパターンは、大きく分けて4つあると思っています。
- ほとんど障害がない
- 多少の障害はあるが、自立歩行できる
- 障害があり、車椅子で移動する
- 重い障害があり、介助が必要
これに「職種」や「職場環境」が組み合わさるため、仕事が継続できるかどうかを一概に断言することはできません。しかし、私の経験が、皆さんの職業選択の分岐点を考えるヒントになれば幸いです。
私の選択:管理職としての復帰と、現場の「不都合」
発症当初、私は自力移動ができない状態(パターン4)でしたが、退院時には杖をついて歩ける状態(パターン2)まで回復していました。
私の職種は建築施設の設計・監理の管理職。デスクワーク中心でしたが、時には現場に出て、狭い足場や手すりのない仮設階段を昇り降りしなければなりません。
「杖一本で、なんとか現場に対応できた」のが正直なところです。もし回復が思わしくなければ、以前の仕事を続けることは不可能だったでしょう。
障害者の職業選択は、想像以上に狭い
軽度の障害であっても、いざ「別の仕事」を探そうとすると、選択肢は極めて少ないのが現実です。
- 立ち仕事: 店内清掃やレジ打ちなどは、長時間の立位保持が難しい。
- 手作業: 部品組み立てなどは、手指の巧緻(こうち)動作が追いつかない。
これらは「努力や訓練」だけで解決できるものではなく、身体機能という根本的な壁にぶつかります。
私は、定年後の再雇用退職後に別の職業を探そうと公共職業安定所「ハローワーク」へ行きましたが、マッチする職業はありませんでした。
それでも生活維持のために働かなければならない
私が入院中に出会った職業の方には、教師、板前、工員、長距離トラックドライバーなど様々でした。その殆どの方が脳卒中で、片麻痺の方が多かったです。
これらの職種では、プロとしての手先の器用さや、長時間の運転や作業に耐えることが出来なければ勤まらないものが多いのです。そのような方々が最後の砦として「回復期病院でのハードなリハビリ」に挑んでいるのです。
入院中、片麻痺を抱えながら猛烈なリハビリに励む板前さんがいました。
調理リハビリで鮮やかな手さばきを見せる彼に、私が「素晴らしいですね」と声をかけると、彼はこう言いました。
「あれでは全然ダメなんです。倒れる前の2〜3割しかできていません」
プロとしての誇り、家族を支えなければならない責任感。彼らにとってリハビリは「日常に戻るための練習」ではなく、人生をかけた「死守すべき最後の砦(とりで)」なのです。
なぜそこまで頑張るのか。答えは簡単です。家族の生活を守り、自らの尊厳を保つためです。しかし、もし以前の仕事に戻れなければ、どんなに無理をしてでも、窓口の狭い「別の職種」を探さなければならない。これが私たちの直面する現実です。
だからこそ「転ばぬ先の杖」を手にしよう
一度障害を持ってしまうと、復活にはとてつもないエネルギーが必要です。そして、職業選択の幅は驚くほど小さくなります。
もし今、身体に多少の不都合を感じつつも「自分はまだ大丈夫だ」と思っているなら、そこが運命の分岐点です。
「まだ動ける今」こそが、将来の自分を守るための「気付き」の時です。無理を重ねて手遅れになる前に、環境を整え、働き方を見直し、自分を助けるための準備を始めてください。
自分の身体を一番知っているのは、あなた自身です。
どうか、後悔する前に「転ばぬ先の杖」を手にしてほしいのです。
💡 私が考える「転ばぬ先の杖」の具体例
では、具体的にどんな『杖』を持てばいいのか。私が実体験から痛感(後悔)した、準備すべき4つの備えをご紹介します。
- 身体の「現在地」を客観的に把握する
- 専門医の定期受診: 違和感を放置せず、病院での診断が「進行性」なのか「維持できているのか」を数値や画像で把握し続けてください。
- リハビリの習慣化: 障害が出てから始めるのではなく、筋力や柔軟性を維持するための「貯金」として、今できる運動を日課にしましょう。ただし、首・腰・間接などに強い負荷をかけないようなメニューを選ぶことが大切です。
- 「働き方」の選択肢を広げておく
- 職場の理解を得るための準備: 突然倒れて職場に迷惑をかけたくはないものですが、そうはいかない場合も多いのが現実です。日常的に職場の方々と良好なコミュニケーションをとり、不測の事態が起きても対応(テレワークの活用や業務分担の調整など)してもらえる信頼関係を築いておきましょう。
- スキルの棚卸し(たなおろし): 「もし今の現場仕事ができなくなったら、座って何ができるか?」を考え、パソコンスキルや資格の取得など、身体への負担が少ない業務への移行準備を始めましょう。
- 「制度」という守りを固める
- 保険の再確認: 住宅ローンの団体信用生命保険(特定疾病保障)や、所得補償保険の内容を再確認してください。「いざという時にいくら入るか」を知るだけで、精神的な余裕が変わります。
- 相談先のリストアップ: 医療ソーシャルワーカー(MSW)」や「地域包括支援センター」など、困ったときに駆け込める場所を控えておくだけでも、立派な杖になります。
- 「心の余裕」を蓄えておく
- 「できない自分」を想定する: 完璧主義の方ほど、できなくなった時に心が折れてしまいがちです。「以前の2〜3割しかできなくても、それが今の自分の全力だ」と認められる心の柔軟性を、今のうちから養っておくことが大切です。
