頚椎損傷当日

雪の夜 Experiences
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 睦月、3日前から降り始めた雪は平場でも50cmを超えており、除雪された道淵には1m以上の雪の壁が続いている。おまけに今朝の気温はマイナス9℃。今日、我が家は法要を執り行うのだが、お経は自宅で読んでいただくため縁ある客人が我が家を訪れる。「なんて日だ…」と或るコントのセリフを言いながら除雪作業に入った。雪は絶えず降り積もっている。

 除雪も佳境にさしかかったころ、凍った路面上の新雪は「滑る」という罠を隠すには絶好だった。私は見事にその罠に掛かってしまい、あっと言う間に後ろに倒れた。その瞬間、首から下が全く動かなくなってしまっていた。自分の意志では必死に命令しているにも関わらず、だ。幸い、話すことはできたので近くにいた息子に救助を頼み、救急車を呼んでもらった(この時、近くに誰もいなかったら私はそのまま凍死していただろう)。息子に法事の段取りを簡単に伝え、催事の流れについては私の弟を頼る様にと伝言して救急車に乗り込んだ…救急車には妻が付き添ってくれることになった。

 「なんて日だ」…再び蘇るセリフ、と同時に様々な後悔が頭の中を駆け巡る。病院に着いて検査・処置を受けるが、正直言ってこの時点での事は余りよく憶えていない。処置の後、薬なのか疲れなのか原因は分からないが暫く寝ていたようだ。
 目が覚めたら、妻が横に付き添ってくれていた。そこで妻が口にした言葉が「貴方は後縦靭帯骨化症という難病だそうです。」という事だが、初めて耳にする言葉なので、それが何なのか皆目見当もつかない。
 直ぐに主治医に来てもらい説明を聞いた。まだ頭の中がボンヤリとしていたので、説明を受けても全てを理解することはできなかった。が、分かったことは
 ① 頸椎での神経根を圧迫していて、この後手術しても元に戻らないばかりか障害が残る可能性が高い
 ② 手術は、心筋梗塞の薬効により多量出血の恐れがあるため直ぐに出来ない
 ③ このため、処置までに日数がかかることから運動機能を著しく下げる
 ④ 以上の事から復帰までに相当の時間が掛かり、障害の度合いが大きくなる可能性が高い
ということだった。

 暦でよく見る「仏滅」と「三隣亡」が一度にきたのか、ここでも出るセリフは「なんて日だ」…しかし、今さら悔やんでも仕方がない。説明が終わった後、妻と今後について軽く話し、夜も遅くなったので帰ってもらった。
 家庭の事、仕事の事、いろいろ考えなければならないのだろうが、不思議と睡魔に負け「時間は十分ありそうだ、明日からじっくり考えよう。」となり、その日の夜は深い眠りについた。