病院での自動車運転訓練とは、実車での訓練ではなく運転シミュレータによる模擬訓練である。しかし、最初から模擬運転に入る訳ではなく、先ずは両腕を使ってハンドルを左右に回すことから始まる。
腕・肩に障害がある者は既にここで難儀することになる。正面のディスプレイ上では、何処までハンドルを回せば良いかの目盛りが表示され、その数値以下でも以上でもいけない。実践ではコーナーを回る角度に対し、正確にハンドルを操作しなければならないからだ。
次はブレーキを踏む訓練だ。現代の自動車は、進むことについてはハンドルに組み込まれたスイッチ類で速くも遅くもできるし、条件によっては前車両に追従して速度を変化させたり止まったりもできる。もっと高級車になれば、飛び出しに対しての回避動作や緊急ブレーキも自動で作動するものもある。しかし、これらの機能はあくまで補助的なもので、如何なる条件下でも100%確実に作動する訳ではないことから最終的にはドライバーの判断にかかっている。
自動車の運転で一番大事なことは「如何に早く正確に止まることができるか」だと思っている。当たり前のことだが、クルマは動くから事故が起きる。世の中の悲惨な交通事故は止まるべき所で止まれば問題ないのだ。そのため、止まるための訓練をしなければならない。特に脚(足)に不自由さを感じる者は、いつでも確実にブレーキを踏むことが出来ない場合、例え生活に多少の不便さを感じたとしても自動車の運転は差し控えるべきと考える。そのため、運転シミュレータによる模擬訓練では、ブレーキを早く正確に踏めるようになるまでは次の段階に進めないのだ。
ブレーキ訓練の合格ラインは、アクセルを目一杯踏み込んだ状態から正面のディスプレイ上のランプの色が変わった後、0.8秒以下(※1)でブレーキが確実に効き始めるまで踏み込まなければならなかったと記憶している。それが出来るようになると漸く運転模擬訓練に進むことができる。
この病院では運転シミュレータが2台あって、最新型は正面の大型ディスプレイに加え、左右に大型ディスプレイがドライバーを囲むように設置されている。動きはリアルで、ハンドルやアクセル・ブレーキの反応速度は実車に近く、停車している車や物陰から子供や色々な物が頻繁に飛び出してくるため、対向車に注意しながら回避・停止行動をとらなければならない。また、交差点で右・左折する場合、対向直進車だけでなく左後方からの二輪車にも注意が必要だ。ウインカーを出した時はドアミラーやバックミラーに何も映っていなかったのが、左折直前になって出現したりして結構ヒヤリとした憶えがある。
なお、実際に運転する際には、自動車教習所で何日か実車走行に慣れてからにした方が良い、との事であることを付け加えておく。
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※1 一般的な反応時間(危険察知からブレーキを踏むまでの時間)は、0.6~1.5秒程度で平均0.75秒と言われている。
OPLLの維持期(生活期)リハビリ -17- [2019/9]