レール走行式免荷リフト
ここの病院のリハビリテーション室は広い。これまで急性期リハビリ、即ち総合(救急)病院でのリハビリテーション室しか見たことがない私にとっては印象深い光景であった。その小さな体育館ほどの広さがある空間の一角に30mもあるレールが天井に埋め込まれていて、それは何かを吊して動かすためのものだろうと容易に想像できた。
案の定、レールから伸びた専用の免荷ハーネス(※1)に装着されている装具に我が身を委ね、早期歩行を支援する機械なのだそうだ。使用する歩行支援装具は障害の重さによって使い分けられ、勿論掛かる負荷も調整出来る仕組みとなっている。
最初にこのマシンを装着した感想は「体幹が非常に弱っている患者には向かないな」という事だった。そもそも中枢神経系のダメージにより、足腰ばかりでなく上半身もフラフラしてコントロール出来ていない状態の者が、下半身だけの動きに身体全体がついて行けるはずもなく、呆気なく初日は直ぐにリタイヤした。やはり、自立して歩くという行為は、下半身と上半身が上手くリンクしないとダメらしい、という事を改めて理解した次第だ。
だが、やはりここのスタッフは優秀だ。これを見たPT(理学療法士:Physial Therapist[”OPLL / MI”参照])は即座に上席を交えたミーティングを実施し、以降のリハビリ計画の変更を私に申し出てきた。変更の内容はこうだ。
「器具に対しては症状などによって相性もありますので、この訓練(レール走行式免荷リフト)は当面見送ります。しかし、「歩く」という訓練は絶対に必要なメニューですので、代わりに別のマシンを使った訓練を受けていただきたい。それは、「ウェルウォーク(※2)」という機械を使った訓練です。」ということだ。
私は、マシンの実物とデモンストレーションを見て、想定される効果などの説明を受けた後、リハビリ計画の変更に快く承諾した。この訓練の模様は以降でお話しする。
なお、誤解していただきたくないのは、このレール走行式免荷リフトを使ったリハビリは、実に多数の患者が利用し成果を上げているし、実際、成果を上げた患者を私自身も入院中多数見てきた。私の場合、単にこのマシンとの相性が良くなかっただけのことなので、これを読んで「食わず嫌い」をしないでいただきたい。
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※1 免荷(損傷部分に負荷・荷重を掛けないよう)にするため、身体全体又は一部に装着する装具。
※2 ウェルウォーク(Welwalk):トヨタ自動車と藤田医科大学が共同開発した歩行訓練ロボット。本来は脳卒中の後遺症がある患者に使用する。下肢に装着するロボットの働きを利用して、トレッドミル(走行ベルト)上を歩行するが、歩行中は安全ベルトの装着により転倒の危険がなく、安心して訓練を行える機械となっている。