コインをつまんで裏返し、箱の中に入れる
コインをつかむという動作は、指先から手首に至る全関節を上手に使えないと出来ない。それぞれにバランスよく、時には一か所に、その力の加わえ方を調整しないと摘まみ損ねたり、コインを無用に滑らせたりと悪戦苦闘する羽目になる。そうこうしている内に、いつの間にかコインが机上から姿を消してしまっているということが訓練当初はざらにあった。
コインをつまむことが出来たら、次はつかんだ片手だけでコインを裏返しにして、ペグボードでのリハビリと同様に、机上奥にある箱の中に整然と並べなくてはならない。この訓練も、コインを途中で落としたりすれば最初からやり直しだ。
この様な訓練は見た目だけに止まらず、指・手から腕に至るまで日常生活に必要な可動域を拡げる事で、次の箸を使っての訓練にもつながる大切なリハビリなのだと私は思った。
箸を使って小豆をつまんで移動する
入院当初、私の食事用具は先割れスプーンで、柄にはスポンジハンドル(「OPLLの回復期リハビリ(指先の感覚を呼び覚ます-1-)参照」)が付いていた。しかも、当初はまだ利き手が上手く動かなかったので、左手での食事だ。当然そのままでよい訳がなく、時をかけずに利き手である右手に変更したのだが、力がほとんど入らず、食事を口に運ぶまでに結構時間がかかった。
その内リハビリが進み、指や手に力が着いてくるようになると、先割れスプーンを使った食事では日常的な献立(※1)とかけ離れてしまう事から、OT他スタッフと相談し箸の自助具を利用した食事とするようにした。この時に使用した自助具が「箸ぞうくん(※2)」というものだ。
箸を使ったリハビリも「箸ぞうくん」を使って行う。この訓練も至ってシンプルで、左右どちらかの容器に入った50個ほどの小豆を、箸を使って反対側の空容器に移動させる。最初から上手くいくとは思っていなかったが、見事に的中した。何所をどうつかんでもツルリツルリと小豆が逃げて行く。力の入り過ぎだ。両箸に均等に力が加えられていないと駄目なのに、つかもうと必死になりすぎて指・手・腕の全てが硬直してしまっている。何事もそうだが肩の力を抜いて全身をリラックスさせないと、素早く豆をつかんで移動させることなど出来ない。コツをつかんでからはこの作業が苦にはならなくなった。やがて、通常の箸による訓練も近いだろう。
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※1 長い固形物や魚の身の解しなどが含まれる献立は、先割れスプーンでは扱いきれないことが多々ある。よって、固形物はスプーンに乗るくらいに短く切り、焼き魚などは骨が抜かれてスプーンの底で身が解しやすい状態にする等、一般的な日常的献立と異なる調理をしなければならない。
※2 箸ぞうくん:生活自助具の一つ。箸の天(頭)が繋がっており、持ち代は親指と人差し指での掴み形にフィットする形状となっている。使い代は長くなく箸先は天(頭)に仕込まれたバネ構造により開いている。使用者は、親指と人差し指で箸を掴み形を閉じるだけで箸先が閉じるというシンプルな構造となっている。