最新のリハビリ機器が、どのように麻痺のある身体をサポートしてくれるのか、実体験をもとに解説します
広大なリハビリ室で見つけた「歩行再建」への道
レール走行式免荷リフトとの相性と、スタッフの迅速な判断
ここの病院のリハビリテーション室は広い。これまで急性期リハビリでのリハビリテーション室しか見たことがない私にとっては印象深い光景です。
小さな体育館ほどの広さがある空間の一角には、20mほどのレールが天井に埋め込まれていました。それは、何かを吊り下げて動かす装置だと、すぐに分かりました。
案の定、レールから伸びた専用の免荷ハーネスに装着されている装具に我が身をゆだねて、早期歩行を支援する機械なのだそうです。使用する支援装具は障害の重さによって使い分けられ、かかる負荷も調整出来る仕組みとなっています。
💡一口メモ・・「免荷ハーネス」
免荷ハーネスは、身体の損傷部分に負荷・荷重をかけないようにするため、損傷している身体の一部又は全体に装着する装具です。
最初にこのマシンを装着した感想は「体幹が非常に弱っている私には向かないな」ということでした。そもそも中枢神経系のダメージと長期入院により、足腰ばかりでなく上半身もフラフラしてコントロール出来ていない状態の者が、下半身だけの動きに身体全体がついていけるはずもなく、呆気なく初日はすぐにリタイヤしました。やはり、自立して歩くという行為は、下半身と上半身が上手く調和しないとダメらしい、ということを改めて理解した次第です。
ですが、やはりここのスタッフは優秀です。私のヨタヨタしている状態を見たスタッフは、即座に上席を交えたミーティングを実施し、明日からのリハビリ計画の変更を私に申し出てきました。
「器具に対しては症状などによって相性もありますので、この訓練(レール走行式免荷リフト)は当面見送ります。」
「しかし、歩くという訓練は絶対に必要なメニューですので、代わりに別のマシンを使った訓練を受けていただきたいのですが、それは、ウェルウォークという機械を使った訓練です。」
私は、マシンの実物とデモンストレーションを見て、想定される効果などの説明を受けた後、リハビリ計画の変更に快く承諾しました。
なお、誤解していただきたくないのは、このレール走行式免荷リフトを使ったリハビリは、実に多数の患者が利用し成果を上げていますし、実際、成果を上げた患者を私自身も入院中多数見てきました。私の場合、単にこのマシンとの相性が良くなかっただけのことですので、これを読んでこのマシンに対して「食わず嫌い」をしないでいただきたいのです。
恩人ならぬ「恩機」!歩行訓練ロボット『ウェルウォーク』の衝撃
💡一口メモ・・「ウェルウォーク(Welwalk)」
名称:歩行訓練ロボット「ウェルウォーク WW-1000」
開発元:トヨタ自動車と藤田医科大学の共同開発
下肢に装着したハーネスが自動で動くことにより、被験者はトレッドミル(走行ベルト)上を、身体に大きな負担をかけずに歩行訓練ができる器械です。歩行中は安全ベルトの装着により転倒の危険がなく、安心して訓練ができます。また、患者の障害度などに応じて0-100%と細かく負荷を調節できるので、重度から軽度まで幅広く適用できるのが特徴です。筆者が経験したウェルウォークはWW-1000型で、今はWW-2000型が最新型となっています。
参考:ウェルウォーク公式サイト:「ウェルウォークWW-2000」 https://welwalk.jp/robotics/welwalk/
右脚が勝手に動く?脳と神経の回路が繋がる感覚
ウェルウォークは、本来脳卒中の後遺症がある患者に使用するマシンだということなのですが、麻痺が残る症状が似ているということで試験的に実施してみることになりました。本来は片麻痺での運用が多いのだそうですが、私は片麻痺というより左が僅かに動くという全麻痺に近い状態でしたので、スタッフからは「OPLL患者に試すのは初めてですので、無理でしたら直ぐに中止します。」とのことでした。
しかし、私には
(これが無理なら、社会復帰は確実に遠のくだろう。いや、できないかもしれない。ここで歯を食いしばるしかない。)
という思いが込み上げていました。
スタッフから入念にレクチャーを受け、しかも実際に歩いて見せてくださったのでイメージは完璧です。上から吊るされたハーネスを身に着け、殆ど動かない右脚にロボットを装着。準備完了です。
「それでは始めます。」とスタートボタンが押される。
ハーネスが巻き上げられ私の姿勢は立位に。バランスを取るため、両サイドの補助バーに両手を添えます。これで上半身の支えも安心です。
そこで前を向くと、正面の大型モニタに私の正面の姿が映し出されていましたが、その異様な姿に少しは戸惑いました。下半身だけですと、某アニメーションに出てくるモビルスーツのようです。
初めてのことですので、私の前後にはスタッフがいつでも私を受け止められるよう構えてくれています。そして、「始めます。」と言うスタッフの掛け声と共にトレッドミルが動き出します。

© いらすとや
両腕で出来る限りの体重を支えながら、走行ベルトの速さに沿ってまずは左脚が前に出る。するとどうでしょう、特殊スーツを着けた右脚が勝手に膝を曲げると共に後ろに下がり、爪先を立てベルトを蹴って、その脚を前に出しているのです。
(右脚が動いている…)慌てたのは左脚です。両腕である程度の体重を支えていて良かった。もたつきながら右脚に追従するような形で左脚を交互に動作させます。
(あんなに動かなかった脚が動いている・・)
勿論、機械負荷100%なので私自身の右脚は何の働きもしていません。しかし、これにより暫く沈黙していた右脚の神経系と脳との回路が修復され、運動能力を呼び覚ます感覚が出てきたのです。ここでようやく気付いて辺りを見渡すと、たくさんのスタッフが私の周りを囲んでいて、注意深く私の訓練模様を観察していました。
しばらく走行ベルトを歩いた後、スタッフの「停止します。」の掛け声でベルトの動きはどんどん遅くなる。流石に最初は、止まるときの感覚が分からず、後ろに倒れこみ、スタッフに身体を支えてもらいました。
モニター視覚フィードバックによる姿勢矯正の効果
感想は「とても良い」です。私に合っている。歩いている姿が正面のディスプレイに映し出され、それは正面だけでなく側面、上部と様々な角度で映し出されるので、自分の歩行姿勢や脚・膝の角度が視覚的に認識できるため、リアルタイムで良くない部分を補正しやすくなるのです。私はすぐスタッフに、このリハビリの継続を願い出ました。実際、このリハビリは自立歩行が出来るようになるまでの間、続けられることになりました。
「私にとって『ウェルウォーク』は、まさに『恩人』と同様の存在です!このマシンが無かったら私の社会復帰はありえなかったでしょう」
「『ウェルウォーク』を開発したトヨタ自動車と藤田医科大学、そしてこのマシンを私に紹介してくれたここの病院スタッフに感謝です!」
科学の目で歩きを分析する「3次元動作解析装置」
自立歩行ができる様になると器械によるリハビリは次のステップに進みます。
3次元動作解析装置とは、身体の複数箇所(各関節点)に反射マーカーを付け、8台のカメラによって追跡・撮影を行い、歩行などの動作を詳細に3次元解析する装置です。イメージとしては、野球のバッティングや投球フォームなどのさまざまな運動姿勢・動作を、3次元線形で映し出している映像をテレビなどでよく見ることがあると思います。
💡一口メモ・・「各関節点」
各関節点は測定部位によって変動しますが主な箇所は次のとおりです。
・肩峰(けんぽう、上腕と肩の付根にある骨の出張り部)・肘・手首・上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく、腰骨外側の前部分にある骨の出張り部)・大転子(腿の外側上部の付根にある骨の出張り部)・膝関節点(大腿骨と脛骨などの接続部位/膝)・足関節点(脛骨、腓骨、距骨を繋ぐ関節部位/足首)・中足骨(足根骨と(足の)指骨の間にある細長い骨/足の甲)、その他。
自分の歩行を数値化・可視化して癖を直す
マーカーを付けた被測定者は、免振床の上を歩いている姿をカメラで測定・撮影され、コンピュータで3次元解析が行われます。その結果を見れば、被測定者は自分の身体のどこが傾いて、どう捻じれて、どう軸がブレているのか、そしてどのタイミングで無駄な力が加わっているのかなどが一目瞭然で確認できます。
私の場合、右半身の回復が遅れていたため、解析された線形画像や数値(踏込量、角度、向き、速度等)を見て、歩く時の注意点(どのタイミングで何処に、どの様に、どの方向に力を入れるか等)を念頭にリハビリに励むことができたため、最終的には身体の傾きや癖などが相当改善されたと思っています。
私が入院していた病院では、この器械を活用して患者のリハビリをサポートしており、歩行やバランスの改善、効果的な治療法の設定など、客観的な評価と治療効果の検証に役立てていました。
かつて仕事で多少は関わってきた免振技術。その上で、自分の身体の揺れを制御しながら歩行訓練を受けていることに、不思議な巡り合わせを感じました。
💡一口メモ・・「免振床」
免振床は、免振装置(建物構造部に取り付けられたローラーやダンパー等で構成される)上部に取り付けられた床を言います。「浮き床」とも言われ、3次元(水平・鉛直方向)の揺れの減衰に対応できることが特徴です。実効性のあるリハビリ・メニューには、精密な測定による解析(エビデンス)が不可欠であり、様々な医療器械やロボットはその一翼を担いますが、その機器等は外乱が生じにくいベースに設置されて初めて効果を発揮するものです。このため、医療器械等にとってフラットな環境を付与できる構造物の一つとして免振床があります。
今回の進捗チェック(11の目標より)
**「後縦靭帯骨化症(OPLL)リハビリ目標一覧」**
| 項目 | 訓練内容(目標) | 当事者にとっての重要性 | 達成度 |
|---|---|---|---|
| 1 | 自力での寝返り・起き上がり | 全ての動作の基本。自立への第一歩。 | △ |
| 2 | スマートフォンの操作 | 家族や職場とつながるための「命綱」。 | ○ |
| 3 | 自力での排泄管理 | 人としての尊厳を守るための最大の難関。 | × |
| 4 | ペンでの筆記(字・図) | 書類作成など、社会復帰に欠かせない能力。 | △ |
| 5 | 箸を使っての食事 | 補助なしで「食べる喜び」を取り戻す。 | △ |
| 6 | 着替え(更衣動作) | 介助なしで生活するための必須スキル。 | × |
| 7 | 車椅子への移乗 | 移動範囲を広げ、寝たきりから脱する境界線。 | △ |
| 8 | 歩行器等での自立歩行 | 最終的には補助具に頼らない歩行を目指す。 | △ |
| 9 | 薬の自己管理 | 持病(心筋梗塞など)の再発を防ぐ生命線。 | △ |
| 10 | PC操作(キー・マウス) | 仕事復帰(デスクワーク)への具体的な指標。 | × |
| 11 | 自動車の運転 | 生活圏を広げ、元の社会生活に戻るための鍵。 | × |
※達成度・・◎:達成、〇:ほぼ達成、△:挑戦中、×:未達
- 目標7:ベッドから車椅子への移動(体幹の強化と脚の可動域拡大により、スムーズに)
- 目標8:自立歩行(ウェルウォークにより脳と神経の回路が繋がり、自立歩行の「兆し」を掴む)
- 目標11:自動車の運転(3次元動作解析による姿勢矯正が、将来の運転に必要な軸の安定に寄与)
機械負荷100%から始まった歩行訓練。しかし、それは間違いなく私の脳に「歩く感覚」を思い出させてくれました。
次は出口(排泄)のリハビリテーション模様です。
「えっ、排泄のリハビリなんてあるの?」
そう思われるかもしれませんが、これが実はとても大切なことなのです。
この続きは「後縦靭帯骨化症(OPLL)の回復期リハビリ|自力排泄のための尿カテーテル離脱【OPLL2-4】」でお待ちしています。
引き続き、無理のない範囲でお読みいただければ幸いです。
