利き手を変えるということ
先日、テレビ番組で「災害時の不安を和らげる方法として、利き手と逆の手で歯磨きなどをしてみるとよい」という話が紹介されていました。
これには私も納得したのですが、歯磨き程度の動作であれば、入院中の私でも比較的早く慣れることができました。
しかし、これが**「文字を書く」**となると、話はまったく別でした。
OPLL発症当初、私は四肢がほとんど動きませんでした。手術後のリハビリで徐々に回復したものの、入院当初は右半身の戻りが著しく遅れていました。
そこで私は、不自由を承知で「利き手を左に変える(利き手交換)」という試みを始めたのです。

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デジタルツールが溢れる現代ですが、やはり人となりが表れるのは「手書きの文字」ではないでしょうか。今回は、書くことに向き合った当時の葛藤を振り返ります。
左手で文字を書く難しさ|日本語は右手向きの構造
日本語は右手で書く構造
左手でペンを握って最初に驚いたのは、日本語の文字は驚くほど「右手優位」で成り立っているという現実でした。
- 「引く」動作は楽だが、「押す」動作が難しい
左手で書くと、横線などの「押し」の動作で必要以上に力が入り、紙を突き破ったり、ペン先が引っかかったりします。 - 「書き順」が意味をなさない
ペン先を引くために書き順を変えてみましたが、できあがった文字は「止め・はね・はらい」の脈略が失われ、無惨なものでした。
書き順の大切さを、還暦間近になってようやく骨身に沁みて理解したのです。
線・丸を書く訓練
逆の手を使いこなすには、細かい力加減を制御する力が必要です。しかし、私には時間がたっぷりあります。私はベッドサイドの作業台で、ひたすら基礎訓練を繰り返しました。
- 線の練習: 紙いっぱいに、同じ濃さで縦線・横線を引く。
- 図形の練習: 斜め線や丸を描く。特に、丸や四角を一筆で書く動作は「押す」と「引く」が連動するため、最高の難易度でした。
一ヶ月ほど続けた頃、ようやく綺麗さよりも「四角い枠の中に収まり、他人が判読できる字」を目指すところまで辿り着きました。
利き手が教えてくれたこと
結局、私の左手による筆記が上達することはありませんでした。幸いにもリハビリを重ねる中で右手の機能が回復し、現在は右利きに戻っています。
しかし、この「左手での挑戦」が、右手の回復をより確かなものにしてくれたと感じています。
- 握力: ペンを持ち続けられる持久力。
- 連動: 指先だけでなく、手首や前腕で筆圧を調整する感覚。
- 意識: 漢和辞典を使い、一画一画「正しい字」を書き写す集中力。
まとめ
今でも時折、左手で文字を書いてみることがあります。上達したとは言えませんが、その「思い通りにいかない歯がゆさ」を感じるたびに、入院中の必死な自分を思い出します。
健康な方も、一度左手(逆の手)で日記を書いてみてください。不自由さを通して自分の身体と対話することは、きっと「前に進む気持ち」を支える新しい力になるはずです。
後縦靭帯骨化症(OPLL)の症状や手術については、別の記事で体験を詳しくまとめています。興味のある方はそちらも参考にしてください。
