起き上がるまでの苦闘とスタッフの支え
いよいよ本格的なリハビリが始まりました。しかし、起き上がるどころか寝返りさえ満足にできない転院当初の私にとって、訓練室(リハビリテーション室)は何と遠いことでしょう。
まずは以前と同様、脚や腕の曲げ伸ばしと握力をつけるための訓練をします。ただし、急性期リハビリと違うのは、ここではできないことに対しては集中して時間をかけて行われます。お陰で2~3日で寝返りができるようになりました。
💡一口メモ・・「1日のリハビリ時間」
リハビリはどのようなステージでもマンツーマンが原則となっています。回復期リハビリの場合、一患者の訓練時間は20分を1コマとして1日最大9コマまでで、計3時間以下としなければならない決まりがあります。コマの使い方は単独でも連続でもよいのですが、機能回復度によっては1回のリハビリに数コマを使って集中的に実施することもあります。なお、入院できる期間は疾患の種類などにより厚生労働省で定められていますが、180日が現在の最長入院期間となっています。
しかし、この後が大変でした。
どこをどう踏ん張っても上半身を起こすことが出来ないのです。2か月近く寝たきり状態だったため、全身の筋肉がやせ細り、関節の可動域がかなり小さくなってしまっていたのです。
電動ベッドと車椅子移動の繰り返し
とりあえず、電動ベッドの背上げ機構を利用して上半身を立てた状態にし、何とかベッドから脚を下した状態にまでできました。ここからはリハビリスタッフが私を抱え上げ車椅子に移動してくれるのですが、入院生活で瘦せたとはいえ転院当時の私の体重は65kg前後。そんな身体の移動ですが、特に女性スタッフにとっては決して軽い移乗ではなかったはずです。加えて、入院当初から装着している尿カテーテルの蓄尿バッグも同時に移動しなくてはならなかったので、大変だったと思います。
そして訓練室に行けば、先程とは逆に車椅子からリハビリ用診察台へ(蓄尿バッグと共に)移動させる。リハビリが終われば来た時の逆の事をしなければならず、1日に何回もこれを繰り返すことになります。
仕事とはいえスタッフは大変だったでしょう。でも、この様な移動の繰り返しのお陰で、私の身体には多少なりとも筋肉がついてきて、身体の可動域が少しずつ広がっていました。
私の場合のリハビリは、初期は運動療法と作業療法が並行して行われたのですが、とにかくベッドから起き上がれないと次のステップに進めませんので、リハビリスタッフの方もたくさんの時間をかけてこれに携わってくださいました。
毎日、リハビリの始まりは各部位のマッサージと関節の可動域を広げることから始まり、その後はベッドマットの上で起き上がりの練習を繰り返していたのですが、上手くいかない日が何日も続きました。
手指の機能を支える「作業療法」と3つの特訓
【書く】シリコングリップを使った筆記訓練
その後は作業訓練。まずは、鉛筆を持って自分の住所と名前を書くことから始まります。訓練を始めたばかりの私の握力は、利き手である右手がほぼ「0」、多少回復が早い左手が「1~2」。これであの細い鉛筆を三本の指で支えられるはずもなく、字を書くどころではありませんでした。比較的動きやすかった左手を利き手に変えようとしてみましたが、長年そのように使うことが無かったため、読む相手が可哀そうになるくらい悲惨な出来栄えでした。
(この「書くことのむずかしさ」については、別記事「障害による「書くこと」の不都合|利き手交換リハビリで見えた景色」に詳しく記しましたので、そちらをお読みください。)
そこで、作業療法士の方が出してくれた秘密兵器が、鉛筆に巻く自助具です。本来はスプーンなどに巻いて使うものなのですが、療法士の方が機転をきかせてくれたものです。これによって持ちやすさはとても改善できましたが、指や手首の関節がスムーズに動くようになった訳ではありません。仕方が無いので肘を動かせて文字を書くようにしました。
・・一文字書くのにどれだけの時間を要したでしょうか・・
スタッフの方は何も言わずに、顔に笑みを浮かべて待ってくれています。でき上がったら優しく褒めてくださいます。それも仕事と言われればそれまでですが、褒められることは次への意欲につながります。
一方、私への訓練課題は日ごと着実に増えてきます。その計画性と実行性の見事さは、多分これまでの知見と実績に基づいたものなのでしょう。ここの病院スタッフの業務習熟度は素晴らしいものでした。
私が使用したのは、以下のようなシリコングリップ型の自助具です。用途や感じ方には個人差がありますが、参考までに掲載します。
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なお、市販されているタッチペンにこのシリコングリップを巻いて、リハビリ目標の一つである「スマートフォンの操作」ができるようになりました。
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これにより、指先が不自由でも「命綱」であるスマホでの連絡が可能になり、孤独感から救われた思いでした。
【つまむ】ペグボードとコイン裏返し
次に控えしは、ペグボードによる作業療法。最初は、机上に拡がっているペグをつまみ、机上奥にあるボードに差し込むだけの作業ですが、慣れてくると、親指と中指でつまんだペグを人差し指で返してからボードに差し込む作業になります。
やがて、目標となるボードはどんどん遠くなり、いやが応でも肩・肘・手首関節の可動域を柔軟に広げないと成果が出なくなってしまいます。
大変だったことは、作業中にペグを一度でも落とすとやり直さなければならないため、単純なようですが慎重に進めなくてはならず、かと言って無限に時間がある訳ではありませんので、机上訓練とはいえ結構汗をかくほどの作業でした。
これは、徐々に生活半径内での可動域を広げるための大切な作業です。

© いらすとや
その次はコインつまみと裏返しの作業訓練です。
コインをつまむという動作は、指先から手首に至る全関節を上手に使えないとできません。それぞれにバランスよく、時には一か所に、その力の加わえ方を調整しないとつまみ損ねたり、コインを無用に滑らせたりと悪戦苦闘する羽目になります。そうこうしている内に、いつの間にかコインが机上から姿を消してしまっている、ということが訓練当初にはざらにありました。
コインをつまむことができたら、次はつかんだ片手だけでコインを裏返しにして、ペグボードでのリハビリと同様に、机上奥にある箱の中に整然と並べなくてはなりません。この訓練も、コインを途中で落としたりすれば最初からやり直しです。
この様な訓練は見た目だけに止まらず、指・手から腕に至るまで日常生活に必要な可動域を広げる事で、次の箸を使っての訓練にもつながる大切なリハビリなのだと思いました。私はこのリハビリによって、小さな錠剤を机上などに落とした際、それをつまんで口までに運ぶことができるようになりました。
【食べる】「箸ぞうくん」で小豆をつまむ練習
入院当初、私の食事用具は先割れスプーンで、柄にはスポンジハンドルが付いていました。しかも、当初はまだ利き手が上手く動かなかったので、左手での食事です。当然そのままでよい訳がなく、時をかけずに利き手である右手に変更したのですが、力がほとんど入らず、食事を口に運ぶまでに結構時間がかかりました。
その内リハビリが進み、指や手に力が着いてくるようになると、先割れスプーンを使った食事では日常的な食事動作とかけ離れてしまうことから、スタッフの方々と相談し、箸の自助具を利用した食事にしました。この時に使用した自助具が「箸ぞうくん」です。私の場合は、箸を使う練習を進める上で大きな助けになりました。
箸を使ったリハビリも「箸ぞうくん」を使って行います。この訓練も至ってシンプルで、左右どちらかの容器に入った50個ほどの小豆を、箸を使って反対側の空容器に移動させます。もちろん最初から上手くいきませんでした。
どこをどうつかんでもツルリツルリと小豆が逃げて行く。力の入れ過ぎです。両箸に均等に力が加えられていないと駄目なのに、つかもうと必死になりすぎて、指・手・腕の全てに力が入り過ぎてしまっていました。何事もそうなんでしょうが、肩の力を抜いて全身をリラックスさせないと、素早く正確な動作などできません。その内、つかむコツをつかんで(シャレではありません(笑))からは、この作業は苦にはならなくなりました。やがて、通常の箸による訓練も近いでしょう。
私が使用した箸の自助具は以下のようなものです。体調や手の状態によって合うものは人それぞれですが、一つの選択肢として参考になれば幸いです。
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💡一口メモ・・「箸ぞうくん」
生活自助具の一つ。箸の天(頭)が繋がっており、持ち代は親指と人差し指での掴み形にフィットする形状となっています。
持ち手は長すぎず、箸先は天(頭)に仕込まれたバネ構造により自然に開く仕組みになっています。使用者は、親指と人差し指で箸を掴み、形を閉じるだけで箸先が閉じるというシンプルな構造となっているもので、握力が弱くても使える箸となっています。
11の目標:今回の進捗チェック
**「後縦靭帯骨化症(OPLL)リハビリ目標一覧」**
| 項目 | 訓練内容(目標) | 当事者にとっての重要性 | 達成度 |
|---|---|---|---|
| 1 | 自力での寝返り・起き上がり | 全ての動作の基本。自立への第一歩。 | △ |
| 2 | スマートフォンの操作 | 家族や職場とつながるための「命綱」。 | △ |
| 3 | 自力での排泄管理 | 人としての尊厳を守るための最大の難関。 | × |
| 4 | ペンでの筆記(字・図) | 書類作成など、社会復帰に欠かせない能力。 | △ |
| 5 | 箸を使っての食事 | 補助なしで「食べる喜び」を取り戻す。 | △ |
| 6 | 着替え(更衣動作) | 介助なしで生活するための必須スキル。 | × |
| 7 | 車椅子への移乗 | 移動範囲を広げ、寝たきりから脱する境界線。 | × |
| 8 | 歩行器等での自立歩行 | 最終的には補助具に頼らない歩行を目指す。 | × |
| 9 | 薬の自己管理 | 持病(心筋梗塞など)の再発を防ぐ生命線。 | △ |
| 10 | PC操作(キー・マウス) | 仕事復帰(デスクワーク)への具体的な指標。 | × |
| 11 | 自動車の運転 | 生活圏を広げ、元の社会生活に戻るための鍵。 | × |
※達成度・・◎:達成、〇:ほぼ達成、△:挑戦中、×:未達
- 目標1:自力での寝返り(2〜3日の猛特訓で達成!)
- 目標4:ペンを持って字を書く(自助具を使い、肘を使って一文字ずつ克服中)
- 目標5:箸を使っての食事(「箸ぞうくん」との出会いで小豆がつかめるように)
- 目標9:薬の管理(コインや小豆の訓練により、小さな錠剤をつまむ力が回復)
「起き上がる」という壁はまだ高く、排泄や移動には介助が必要な段階ですが、石のようだった指先に少しずつ「自分の意思」が宿り始めています。
次は理学療法による歩行能力回復のためのリハビリテーション模様です。
なかなか次の段階に進めない私を慮って、スタッフは最終兵器?を用意してくださいました。
この続きは「後縦靭帯骨化症(OPLL)の回復期リハビリ|ロボット歩行訓練の効果と実感【OPLL2-3】」でお待ちしています。
引き続き、無理のない範囲でお読みいただければ幸いです。
